Q&A 2: 潜在性結核感染症について(診療ガイドラインへの質問)
Q&A 2 2013年6月24日
質問:潜在性結核感染症について(診療ガイドラインへの質問)
【質問1】
結核診療ガイドライン(第二版、P93)に「LTBIに対しINHを投与すると、投与終了後少なくとも10年以上にわたり効果が持続する」といった記載があります。
10年前に接触によりLTBIとなった患者にINHを投与した場合、その後10年間はその当時に感染した結核菌による発病は抑えられるという意味であると解釈したのですが、その解釈で正しい場合、その10年の間にまた別の接触により結核菌に感染した場合は、その新たな結核菌に対する発病予防効果はない、と考えてよいのでしょうか?
(結核診療ガイドラインの記載だけでは、INHがあらゆる結核菌から10年間体を守り続けてくれる、という解釈もできてしまい先のように質問しました。)
この疑問を抱いたきっかけに担当診査会の患者さんの実例があり、50歳男性、職業医師(結核患者との接触リスク高)
1996年 接触者検診でツ反強陽性→LTBIの診断でINH・RFPを6か月+EBを3か月内服(LTBIの治療内容としては考えにくいのですが、医師である患者本人が間違いなくLTBIの診断で上記内服をしたと申しております)
2013年(今回事例) 接触者検診でQFT(+)→塗抹(-)、胸部X線・CTもn.p.
【質問2】
1996年時はツ反強陽性のみでLTBIと診断されており、QFTは実施されておりません。
そのような患者さんでQFT(+)が判明した場合は、前回のツ反がBCGの影響よらないものと断定できないため、今回のQFT(+)が直近の接触による結核菌感染と考え、積極的にLTBIと診断しINHを投与すべきでしょうか?
回答 2013年10月30日11:10
ご指摘の結核診療ガイドライン(第二版、P93)の「LTBIに対しINHを投与すると、投与終了後少なくとも10年以上にわたり効果が持続する」の出展となっている文献は、
Ferebee SH :.Controlled chemoprophylaxis trials in tuberculosis: A general review. Adv Tuberc Res 1970; 17:28-106.
です。
この論文は1950年代から60年代に行われたINHによる予防内服の多くの比較対象試験の結果のレビューで、結核感染者に対するINH投与群と非投与群では少なくとも10年間はINHを投与した群の発病率が低かったことを示しています。
ご示唆のように、感染した結核菌による発病を抑えるという理解が妥当と思います。
なお、再感染による発病は、糖尿病、HIV/AIDS、免疫抑制作用のある薬剤の投与、高齢による体力の低下等、免疫低下要因を持つものでは注意が必要ですが、通常はその可能性は高いものではないとされております。
LTBIの再治療については有効であるという報告はないことから勧められませんが、「再治療を考慮してもよい場合として,前回LTBI治療を行なったが,その際の感染診断がツ反によって行われた場合などLTBI診断の根拠が不十分であったために真の感染ではなかった可能性が高く,かつ,今回の接触で明らかに感染していると思われる場合があげられる。」以上は、結核病学会誌の本年5月号に掲載された、「日本結核病学会予防委員会・治療委員会.潜在性結核感染症治療指針.結核2013:88;497-512」から引用したものです。(本文をご参照いただければ幸いです。)
ご相談の事例につきましては前回の診断の確からしさの問題かと思います。対象者は医師で前回のLTBIの診断が確実とされているのであれば、LTBI治療の有効性の根拠は明らかでないことになります。
予防委員長 加藤 誠也(結核研究所)